更新日:2017年10月4日 / 山田
平成19年4月1日以後に設立された医療法人は、「持ち分なし」の医療法人です。
それ以前に設立された医療法人は「持ち分あり」です。
その違いは、医療法人が解散された場合や、出資者が出資をやめたといった場合に、その出資額に応じた医療法人の財産が戻してもらえるかどうかです。
「持ち分あり」は上記のような出資という形態を取っているので、医療法人の財産は出資者に戻さなくてはなりません。
100万円で設立しても、その後医療法人の財産(純資産)が1億円に増えていれば1億円が出資者に戻ってきます。
「持ち分なし」は、そのような出資という形態ではないので、当初拠出した金額が戻ってくるだけです。
100万円で設立した場合、医療法人の財産が1億円になっていても、100万円が拠出者に戻ってくるだけです。
(正確には「持ち分なし」の場合、基金という形態を取っていることがほとんどです。)
「持ち分あり」の場合は、このように医療法人の財産に応じて戻ってくる金額が増減するので、株式会社の株と同じように、医療法人の持ち分についても出資者個人の相続財産となります。
相続財産とは言っても、医療法人が継続している以上は出資者個人が自由に使える財産(お金)ではないのに、相続税がかかります。
しかも、医療法人の多くは利益を出し続けるので、長く医療法人を運営している場合、医療法人の持ち分は〇億円というケースも少なくありません。
それに対する相続税をかけられても、相続人は払うお金がありません。
そこで、そのような事態に陥る前に、「持ち分あり」⇒「持ち分なし」の医療法人へ変更しようと考えます。
そうすれば相続税のことを考えなくてよくなります。
「持ち分あり」⇒「持ち分なし」にするということは、医療法人は将来出資者に財産を返さなくてはならなかったのが、返さなくてよくなります。
財産(純資産)が1億円であれば、1億円を返す義務が無くなることになります。
となると、医療法人は1億円得した、と考えられ、医療法人に贈与税がかかります。
おかしな話です。
これまではこのような理論で、どうやっても税金がかかるので、「持ち分あり」の医療法人もわざわざ「持ち分なし」に変更するということは少なかったのです。
国としては医療法人の公益性を高める為、そして相続税や贈与税の問題で医療法人の事業承継がうまくいかないという問題を解決する為、平成29年10月1日から新しい制度が作られました。
それが認定医療法人の制度です。
認定医療法人の制度自体はこれまでもありましたが、これまでは出資者個人の相続税、贈与税を免除する、というだけで、「持ち分あり」⇒「持ち分なし」へ変更した時点での医療法人への贈与税がかかるということは変わりありませんでした。
しかし、10月1日からの新しい認定医療法人の制度では、この医療法人への贈与税もかからない、と明記されました。
認定医療法人になる為には、厚生労働省へ所定の書類を提出し、各要件を満たさなくてはなりません。
要件とは、ほぼ社会医療法人になる為の要件と一緒です。
社会医療法人の要件と違うところはおおまかに言うと
①役員が全員親族でも問題ない
②役員の人数の下限が無い
③救急医療等を行わなくてもよい
という点です。
今のままの親族ばかりの役員であっても「持ち分なし」の医療法人へ移行ができます。
ただし、役員や役員の関係者等に特別の利益の供与があってはいけません。
例えば、役員だけが医療法人の社宅に住んでいる、役員だけに低い利率でお金を貸している、役員個人の財産を医療法人が高額に買い取っている、役員へ不相当に高額な給与を払っている、などです。
恐らく一番の肝はこの部分になると思います。
それ以外にも利益を出し過ぎていないか、保険診療等が全体の8割以上か、など細かい要件もありますが、一般的な医療法人であれば問題は無いと思います。
「特別の利益供与」と認定されないかどうか、をクリアできれば、多くの医療法人が「持ち分なし」へ移行することが可能だと考えられます。
もし、将来の相続などが気になっている「持ち分あり」の医療法人の方は、一度確認していただくことをおすすめします。